キミへ

俺は確かに、と思って『うん』とだけ言った。

杏菜って、見てねぇようで見てるからな…

洞察力がすげぇっつか、なんつーか…。



「ごめんね、さっき」



急にそんなことを言うもんだから一瞬なんのことかわかんなかった。



「え? あ、あれは…」

「ついカッとなってさ…。なーんかムカついて」



杏菜は俺の言葉を遮って、自嘲的に笑って言った。

……別にあれは杏菜のせいじゃねぇのに…



「なぁ杏菜?」

「…ん?」



下がっていた頭が俺に向けられた。



「杏菜、なんかされなかった?」

「へ?」



キョトンとして俺見つめる。

可愛い………、じゃねーや。



「俺さ、杏菜がキレる前チラッと見えたんだけど」

「うん?」

「あの男に迫られてなかった?」



若干感情が押さえられなくて睨むように言ってしまった。

あー…これじゃ言えるもんも言えねぇよ



「…………」



黙ったままの杏菜に俺は極力優しく言った。




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