キミへ

「本当のこと言って? 誰も杏菜のせいなんて思ってないから」



そう言うと、杏菜の目から涙が零れた。

え…え!? 俺、泣かした…?

1人で焦って杏菜を見た。



「あ、杏菜っ?」

「あれ…おかしいなぁ…」

「!」



口元には笑みがあるのに、目からは大粒の涙がポロポロと落ちる。



「何であたし…泣いてんだろ……」



嗚咽を噛み締めるように、服の袖で涙を拭う。

…あり得ねぇ、あの男。やっぱ俺も一発殴っときゃよかった



「杏菜…」

「ごめんねっ、何か…よく分かんないけど…勝手に……」



俺は杏菜を抱き締めた。

壊れ物を扱うように、そっと、でもここに居る証にぎゅっと。



「もういいよ、杏菜」

「………っ」

「怖かったよな?」



そう問い掛けると、ビクッと肩が揺れた。



「ごめんな、助けてやれなくて…」



ごめんな、俺見てたのに何も出来なくて……。



「れ…い……っ」



俺はまた杏菜を強く抱き締めた。




< 137 / 203 >

この作品をシェア

pagetop