キミへ
「俺があん時行ってたらこんなことにならなかったのにな……」
杏菜はゆるゆると緩く首を横に振って、ぎゅうと俺にしがみついてきた。
接客中だからって、俺そうやって割りきってた。
割りきってなきゃ…杏菜が泣くことなんてなかったのに…。
「…杏菜」
「…ごめん…ごめんね……っ」
「何で杏菜が謝ってんの」
意味わかんねぇ、本当は俺が謝んなきゃいけねぇのにな。
杏菜が責任感じることなんてねぇのに…。
俺は苦笑いして杏菜の頭を撫でた。
「杏菜、強いなぁ?」
そう言うと不思議そうな声が返ってきた。
「何で?」
「だって、普通何かされたら誰か呼ぶぞ?」
「ごめんね、あたし普通じゃないからぁ」
やべ、変なこと言ったっ?
焦ってたらクスクスと笑い声が聞こえて少しだけ安堵した。
杏菜の肩を持って体を離し、顔を覗き込むように言った。
「やっと笑った」
「へ?」
ビックリしたように目を見開いて俺を見てた。