キミへ
「ただいま〜…」
靴を脱ぎながらそう言うと、ドドドドと足音が聞こえた。
それに驚き、顔を上げればマイマザーがニコニコしながら走ってきた。
「!?」
「お帰りぃ、杏菜!來亞!さっ、さっそく着替えましょ!!」
あたしは母さんに引き摺られるようにして、部屋へと連れ込まれた。
おーのー…さよなら、あたしの華々しい人生よ…。
そしてこんにちは、あたしの地獄の人生よ…。
「ほら!そんな変な顔してないで着替える!」
変な顔って…。
もういい、諦めよう自分。拒否権はないんだ、そうだ、諦めよう。
そう自己完結し、母さんから受け渡されたドレスを着た。
「さっすが私の娘!かわいい!」
「…そうですか」
「次はメイクよ!」
ああ…まだ続くのね…。
母さんにされるがままになり、完成度は半端なくいいものです。
金髪はハーフアップで、ナチュラルメイク。清楚なお嬢様、といったところだ。
「…うん。さすが私。上手過ぎるわ」
え、何この人。自画自賛しちゃってるよ、大丈夫ですか。
「さっ、待ってるから行きましょ♪」
また腕をぐいっと引っ張られ、リビングに連行される。
あ〜…あたしほんとされるがままだ。
「あなた!來亞!見て見て!」
そう言って母さんはあたしの肩に手を置く。
あたしはというと、たぶんむすっとしてて不細工な顔してると思う。
「お、かわいいじゃねーの杏菜」
「杏菜、お姫様みたいだ〜」
2人ともニコニコ(ニヤニヤ?)しながらあたしを見る。
果てしなく行きたくない。
「よし、準備も整った事だし行くか」
「ええ♪」
ノリノリな家族。
そのテンションにすでにあたしはついていけません。
「杏菜〜、早く行くぞー」
「…はぁい」
溜め息に近い、返事だった。