キミへ


「ただいま〜…」



靴を脱ぎながらそう言うと、ドドドドと足音が聞こえた。

それに驚き、顔を上げればマイマザーがニコニコしながら走ってきた。



「!?」

「お帰りぃ、杏菜!來亞!さっ、さっそく着替えましょ!!」



あたしは母さんに引き摺られるようにして、部屋へと連れ込まれた。

おーのー…さよなら、あたしの華々しい人生よ…。

そしてこんにちは、あたしの地獄の人生よ…。



「ほら!そんな変な顔してないで着替える!」



変な顔って…。

もういい、諦めよう自分。拒否権はないんだ、そうだ、諦めよう。

そう自己完結し、母さんから受け渡されたドレスを着た。



「さっすが私の娘!かわいい!」

「…そうですか」

「次はメイクよ!」



ああ…まだ続くのね…。

母さんにされるがままになり、完成度は半端なくいいものです。

金髪はハーフアップで、ナチュラルメイク。清楚なお嬢様、といったところだ。



「…うん。さすが私。上手過ぎるわ」



え、何この人。自画自賛しちゃってるよ、大丈夫ですか。



「さっ、待ってるから行きましょ♪」



また腕をぐいっと引っ張られ、リビングに連行される。

あ〜…あたしほんとされるがままだ。



「あなた!來亞!見て見て!」



そう言って母さんはあたしの肩に手を置く。

あたしはというと、たぶんむすっとしてて不細工な顔してると思う。



「お、かわいいじゃねーの杏菜」

「杏菜、お姫様みたいだ〜」



2人ともニコニコ(ニヤニヤ?)しながらあたしを見る。

果てしなく行きたくない。



「よし、準備も整った事だし行くか」

「ええ♪」



ノリノリな家族。

そのテンションにすでにあたしはついていけません。



「杏菜〜、早く行くぞー」

「…はぁい」



溜め息に近い、返事だった。




< 193 / 203 >

この作品をシェア

pagetop