薄桃の景色に、シルエット。
タイムリミット。
暖かくて、温かくて、あたたかくて。
私はそっと目を閉じた。
ずっと浸っていたくて、でもそれは叶いそうもなくて、目頭が熱くなる。
変わらないものは何もなくて、万物は常に変化する。ならば、変わらない事を望むのは、罪にも等しい事なのだろうか。
「……何だ、食べたいのか?」
「……はい?」
振り向けば、白衣を身に纏った先輩の姿。たった一人の化学部部員、そして部長。
私が見つめていた先は熱帯魚の泳ぐ水槽で、先輩は有り得ないものを見るような目で私を見ていた。そして、先刻の言葉。
「誰が?」
「お前が」
「何を?」
「それを」
と、先輩が指差すのは、青と銀と赤に輝く可愛い可愛いネオンテトラちゃん。
私は唖然として暫し固まる。私がネオンテトラちゃんを食べたい?
「あの、済みません。何がどうなってそうなったんです?」
「じっと見てるから食いたいのかと思った」
「頭、どこで打ったんです? 場所によっては相当痛い場所がありますよね」
「そうだな。俺は頭でも打って少し馬鹿になった方がちょうどいいかもしれんな。はっはっは」
ポンポンと頭を撫で、先輩は器材がたくさん並べられた棚を開けた。
先輩はとっても凄い人だ。ただの優等生ではない。いつかノーベル科学賞をもらえるような、そんな凄い人。
私の目に狂いはない。
「お前、そろそろ期末テストだろ。こんな所で油売ってていいのか」
「私にはそんな事より大切な事があるんですー」
期末テストが終わったら、先輩は卒業してしまう。あっという間にいなくなってしまうのだ。
テスト勉強なんてつまらないものに時間を費やしてなどいられない。
「今回は教えないぞ。少しは自立しろ」
「テストなんて別にどうでもいいです」
「お前な…。それってどうなんだ?」
先輩は微苦笑を浮かべて、試験管を振った。