薄桃の景色に、シルエット。
真昼の月


「おーい、」


 誰かの声がする。でも知らない。

 私は青く広がる宙(そら)をじっと見上げてる。


「おーい!」


 聞こえてる。でも私は忙しい。

 私は青い宙に雲とは違う白を見つけた。


「おーいっ」


 分かってる。でも私は見入ってる。

 青い宙のその白が何なのかを。


「おーい?」

「……………うるさい」


 観念して下を見れば、見慣れた顔がぶんぶんと両の手を振っている。

 名前も知らない男子。でも顔を知ってる男子。

 何かと私に声をかけてくる。うるさいとしか言いようがない。


「良い天気でしょー! 下りておいでよー!」


 子犬のようなくりっとした大きな目を私に向けているのが分かる。

 ――だってそういう奴だから。


「私は忙しい。邪魔しないでくれ」

「何ー? 聞こえない!」

「邪魔、しないでくれ」

「もっと大きな声で!」

「邪魔しないでくれっ」

「何だよー?」

「~~~っ。私の、邪魔を、するなっ!!!」


 はぁ、はぁ、はぁ……肩で息する私に、奴はニヤリと笑って見せた……気がした。


「今からそっち行くねー!」


 なっ?! 来る?! 何故に?!

 私の混乱などお構いなしのようで、奴は中に入って行った。


「……っ。頼むから、これ以上……掻き乱さないでくれ……」


 それは小さな祈りにも、願いにも、当てはまるだろう。

 逃げるだけの気力のない私はずるずると座り込んだ。


 ――もう、時間が、ないんだよ。


* * * E n d * * *


writing by 09/11/30
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