薄桃の景色に、シルエット。
真昼の月-A letter without arriving-
初めて君を見たのがいつだったか、俺は今でもはっきりと覚えている。
俺が初めて脱走を図った日の事だった。
いや、脱走とは言っても単に部屋から抜け出したかったのと、病人じゃなくて一般男子の自分になりたかっただけで。
見舞いに来てくれた友達に服を貸してくれるよう、頼んだんだ。
俺が後生だーって頼み込んだら、そいつは溜め息交じりに服を調達してくれた。
良いダチだろう? 俺の一番大事なダチなんだぜ。
まぁそんなこんなでさ、俺は病院の外に行くのは少し怖かったから、病院の周りをぐるぐる回ってたんだ。
……ふと見上げたら、青い宙と君が見えた。
君はちょっと前の俺と同じ顔して窓辺から宙を見つめてた。
全てを諦めてしまって生きる気力のない顔。
その顔見て、直感したんだ。君は俺と同じなんだって。
それから君に何度も声をかけようとしては空回ってた。
部屋の扉は誰もかもを拒むかのように閉ざされていたし、窓から顔を出しててもそこにはいないようだった。
でもある日、たまたま下を向いた君は今にも涙を落としそうな顔をしていた。
そんな顔を見た瞬間、俺は声を掛けてたんだ。
今まで出来なかった事を無意識で、しかも一瞬で成し遂げられた。
一時の感情って実は凄い威力があるんだな。あの時知ったよ。
そして俺と君が改めて出会ったあの日。そう、君が俺の存在を初めて認めてくれた日。
俺がどれだけ感動したか君は知らないだろうな。いや、知らなくていいんだけど。
泣けずにいた君は「生きたい」っておっきな声で泣いた。
「やりたい事があるんだ」って。
それ聞いて俺は感じたよ。君は頑張ればまだ余地はあるって。
俺は頑張っても頑張ってもダメだったから。
俺と君は違う。その時はっきり分かった。
君は未来に生きるべき人だ。
俺はどんなに頑張ってももう……無理だって知ってしまった。
でも、だからこそ今を楽しもうと思う事が出来た。
見方を変えれば、俺にとっては凄く良い事だったんだ。