薄桃の景色に、シルエット。
「テストなんていつでも出来ます」

「いやいやいや」

「でもこれからは、先輩と一緒にいる事は出来なくなってしまうでしょう? 今の私は、テストより先輩と過ごしてる時間が大切なんです」

「……居ながら勉強すりゃいーだろ」

「どうせ頭には入りませんよ」

「ったく、本当にしょうがない奴だな」

「そうやって、しょうがない奴だったなって…、そう思って私の事、忘れないで下さいね」


 良い思い出の中に居なくてもいい。思い出の中にさえ入れていれば、それだけで私は充分幸せだ。

 先輩にとって私は、纏わりついて喧しい一後輩でしかないのだから。


「お前、たまに可愛いよな。猫みたいだ」

「くす。その科白、ずーっと昔にも言ってましたね、先輩」

「そうだったか?」

「私には大切な思い出のヒトカケラ。先輩との事なら、どんな小さな事でも覚えてますよ」


 遠く、うんと遠くに行ってしまう先輩。

 まだ子どもな私には届かない場所へ。


「中学から高校まで、今思えば結構長い時間、一緒に居たなぁ。お前とは」

「いいえ、短かったですよ」


 少なくとも、私にとってはあっという間の四年間でした。

 いつかもっともっと近づける日が来ると信じていたけれど、結局、最後の最後まで私は可愛い後輩のままなんでしょうね。


「先輩。私、化学部に入りますよ」

「どうした、急に?」

「だって、先輩が卒業したら廃部になっちゃうじゃないですか」


 それに、私が化学部員だったら、先輩はいつか顔を見せにやって来てくれるでしょう?

 『私』には会いに来てくれなくても、化学部に居れば。


「動機が不純そうだから却下だな」

「そんな……廃部の危機を見過ごすんですか?」

「お前が情で存続させてくれたって俺は嬉しくないんだよ」

「……ごめんなさい……」

「怒ってるわけじゃない。言い方が悪かったな、済まん。気持ちだけで嬉しいからいいんだ。ありがとな」

「先輩……」


 本当に、居なくなってしまうんですね。

 私の世界はこんなにも、先輩を中心に回っているのに。
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