薄桃の景色に、シルエット。
「寂しいです。行っちゃヤです、先輩ぃ…」


 込み上げる涙。堪え切れない嗚咽。滲み歪む先輩の姿。

 迷惑だろうと分かっていながら、止められない気持ち。


「先輩。先輩。好きです、私、先輩が大好きです」

「はは、ありがとう。俺も寂しくなるよ。静かになりすぎて落ち着かないかもしれんな」

「違います~っ。私の『好き』はそんな好きじゃないんです~」

「……………」

「男の人として、先輩が好きなんですー」


 先輩は私の前に居ながら、黙っている。

 一頻り泣いたら少し落ち着いた私はやっと泣き止んだ。

 ぐちゃぐちゃな顔を一生懸命拭いて、恐る恐る顔を上げる。

 不機嫌な顔を想定していた私は、予想外の表情を受けて言葉を失った。


「先輩……?」


 四年間一緒に居たけど、かつてこんなに優しい笑顔を受けた事は無かった。


「せ、んぱい……」

「茶化して悪かったな」


 頭を撫でるその手のひらは相変わらず温かい。また、泣きそうになる。


「俺は、ずっと夢があってそれだけに一直線にここまで来たんだ」

「知ってます」

「だから、高校を卒業したら海外に行く事はもう決めてた」

「はい…」

「日本に未練を残したくなくて、他の事に興味は持たないようにしてた」

「はい……」

「でも、お前が現れた」

「え?」

「お前は俺と出逢ってから世界が変わったといつか言っていたが、同じように俺の世界もお前と出逢ってから変わったんだよ」


 おかしそうに笑う先輩を、私は首を傾げながら見つめた。先輩の言いたい事が分からない。


「お前は知らないだろうが、俺はお前に救われた時もあったんだぞ」

「………っ!!」


 夢を見ているのかと思った。でも、ここまで都合の良い夢は見れた試しが無い。
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