薄桃の景色に、シルエット。

-語リ日和-


 今日はいつもより早めに帰った。

 二月に1度の調理実習で作った苺のショートケーキが美味しく出来上がったから。

 おにーさんに見せて、自慢しながら食べようと思って。

 とにかく早く帰らなきゃって足早に家を目指した。

 ぽいっと靴を脱ぎ捨て、私はそのままどたばたと自室に向かった。

 いつものように鞄を放り、大事に抱えて来た紙袋だけは腕の中にあった。

 カーテンを開け、窓を開けて、おにーさんを呼ぶ。


「隣のおにーさん!」


 いつもこの一声で1分もしない内に窓が開かれる。それ以上待つ時は、大学やサークル、たまにやってるバイトだったりする。


「おにーさん!」


 ………人がいる気配がしない。

 何だ、今日はいないのか。せっかく上手に出来たショートケーキ自慢しようと思ったのに。

 がっくりと肩を落として紙袋からアルミホイルに包まれたショートケーキを取り出す。

 少し見栄えは悪くなってしまったけど、でも、美味しそうに見える。

 料理上手な親友を持つとこういう時、助かるんだよなぁ。


「せーっかくこんな美味しく出来たのに…。自慢くらいさせてよねー」


 こうなったら自棄食いだぁ!っと口を大っぴらに開けた時だった。

 カラカラ――。

 真向かいの窓がカーテンと一緒に開かれる。


「随分とでかい口だな」

「ふぉふぃーふぁん!!」


 時既に遅し、齧りついてからその存在に気付く。

 もぐもぐごっくん。


「いたの?!」

「いや、今帰って来たとこ。何だかブツブツと声が聴こえたんで開けてみれば、大喰らいに負けず劣らずのでっかい口を開けるお嬢さんを目撃ってね」

「もっと早く帰って来てよ! せーっかくこの美味し~いケーキを自慢して目の前で食べてやろうってそれを楽しみに今日は急いで帰って来たんだから」

「ぷっ。そんな事の為に早く帰って来たわけ? くく…っ」
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