薄桃の景色に、シルエット。
「え? だって、美味しい物を目の前で見せびらかされて食べれないって最大の嫌がらせじゃん! 私だったら末代先まで呪ってやるね!」

「くっくっく。残念だったな、俺も今日超美味いショートケーキ食って来たんだよ」

「何ですと?! はあぁ~私の楽しみがあぁぁ」


 しょうがないので一思いにケーキを放り込んでもぐもぐごっくん。

 運動ダメ、勉強ダメで取り柄なしの私は部活は敬遠して、中学も高校生の今も帰宅部。

 そしたら楽しみなんてなかったし、誰もいない家に早く帰りたいという気持ちもなかった。

 だからこそ、おにーさんと知り合ってからはこのやり取りが私の唯一の楽しみになってた。


「さては彼女だなーっ。おにーさん! 彼女との付き合いも大事だけどさ、お隣さんとの付き合いも大事なのよっ」

「はいはい、寂しかったんだよなー。話し相手がいないから」

「うっ……」


 両親は共働き、兄弟もいない。私はいわゆる鍵っ子で、家で一人が当り前だった。

 一人には慣れっこだったはずなのに。

 おにーさんと話してる時間が楽しすぎて、家に一人が耐え難くなってしまった。


「ショートケーキ…。美味しかった…?」

「まぁな。けど、お嬢さんのケーキの方が美味しそうだったかもな」

「っ、でしょでしょ! だって私の自慢の親友が指導してくれたんだもんっ」

「料理上手な子な」

「そう! ほっぺが爛れそうなほど美味しかったよ!!」

「……落ちるの間違いじゃないか。爛れてどうする」

「どっちでもいーの、美味しかったって事が伝われば!」

「ふむ。確かに」


 さっきまで寂しかったのになぁ。

 一気に吹き飛んで行ったみたいだ。


「お嬢さんも何か部活かバイトかすれば少しは寂しさも紛れるんじゃないか?」

「何やってもダメなもんで。バイトはね、研修一日目でクビにされて以来、自信なくしちゃってさ」

「……。ほんと不憫な子だな」

「そうなんだよ。親友達はみーんな、美人な上に運動が出来たり勉強が出来たり家庭的だったりで取り柄がたくさんあるんだけど、私はなかなか」
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