薄桃の景色に、シルエット。
或る朝の風景-せみのこえ-
みーんみーん。
そんな鳴き声で目を覚ました。
時計を見遣れば、早朝5時40分。
昨夜は深夜1時頃に就寝したとして、5時間も眠っていない。
予想外の早起きに、私は再度眠りに就こうかどうか迷っていた。
というのも、私の睡眠時間は7時間以上。そのくらい眠らないとスッキリしないのだ。
(眠ろうか…でもせっかく早起きしたし…)
どうすべきか迷っているうちに、妹の隣で眠る母の目覚まし時計が鳴る。
これを聴いてしまえば、もう眠りには就けまい。
けたたましいその目覚まし時計は目覚めたばかりの頭に強い衝撃を与えるのだ。
むくりと母が起き上がり、寝室を後にして行った。その背中を見つめ、私はやはりまだ葛藤していた。
(今からお母さんはお風呂だし…やっぱり寝るかな…)
埒が明かないのでケータイを弄ってみる。
そして気付けば、1時間が経過していた。時計は朝7時を示している。
同時に、台所から弁当を作る音が聞こえた。
(せっかく早起きしたんだ、たまには朝ご飯を食べるとしますか)
私はケータイを閉じ、身体を起こして寝室を後にした。
弁当作りを開始している母にそれとなく近寄る。
「手伝おうか?」
そう口にしたのは久し振りだった。
母は笑いながら言う。
「珍しいね、アンタが早起きしてくるなんて」
「たまにはこんな日もあるさ」
母は鶏肉に包丁を入れながら、味付けはどうしようかと言った。
私が塩コショウで良いんじゃないと軽く答えると、味付けの通りに『あっさり』採用された。
「ねー、蝉が鳴いてたんだけど。もう夏だね」
「何言ってるの、梅雨明けから鳴いてるよ」
「………マジで」
という事は何だ、私は約一ヶ月もの間、蝉がよく鳴く早朝に目覚めてないのか?
考えてみれば確かに、ここずっと早起きした試しがない。