薄桃の景色に、シルエット。
眠れない夜に飛び出すドアの向こう
眠れなくて、困り果てた。
どうしようかなって。
部屋は暑くて開けていた窓を閉めようとした時、ふっと気付いた。
月がとても、不思議な形をしてること。
初めて見たわけじゃないのに、胸に何とも言えない高揚感と、温かいココアを飲んだ時のような安心感とが入り交じった感覚が広がっていって。
気付けば眼鏡を取って素足のままベランダへ繰り出し、無意識に手にしていたケータイで写真を撮っていた。
ケータイの写真じゃ綺麗に写せないと分かっていながら、ボタンを押す私の手は何度も何度も綺麗に残そうとして足掻いた。
どのくらいそうしていたか、落ち着きを取り戻した頃。
私は星もいつもより綺麗に瞬いていることに気付いた。
ケータイで月は辛うじて写せても星は写せない。
ならばせめて目に焼き付けようとブランケットを羽織って飛び出した、ドアの向こう。
音を立てて誰かを起こしてしまわないように気遣いながらも、私の胸はドキドキドキドキと高鳴って切りがない。
足音を押し殺すようにして、でも少し駆け足で。
夜中だという危機感も忘れて階段を夢中で下りる。
辿り着いた地上から、息を吐いて見上げた満天の星空は、瞬きを忘れるほどに壮大で神秘的だった。
星一つ一つを見えない線で結んでは辿り、一つ一つを繋ぐ。
分かる星座と言えばオリオン座くらいで、星のことなんかよく知らない。
なのに吸い込まれるように惹かれたのは、何故だろう。
それはあまりに遠く、広く煌めいていて、さっきまでの不安が小さくなっていくのを確かに感じていた。
涙が流れない程度に浮かんで、自然と口許が緩んだ。
そして心の中で思わず呟いたのは『ありがとう』。
何に対してかは分からないけれど、こうしてこの満天の星空を見上げることが出来たことに無性に感謝したくなった。