薄桃の景色に、シルエット。
最終バスに乗って。
気づいたら、一筋の涙が頬を伝った。
ガタガタと揺れる市経営の最終バス。私一人しか乗ってない。
こんな田舎なら、午後7時が最終で乗客ゼロも頷ける。
見渡したって田んぼや畑ばかり。コンビニなんて全然無い。スーパーだって自動車が無きゃ大変。
唯一の自慢と言えば、格安で買える無人販売の新鮮な野菜類。
あとは目に優しい緑。と、田舎らしいところどころにぽつぽつと建ってる家々。
静かな夜を、綺麗に整備されてない道路の砂利に邪魔されながら――いや、遊ばれながら、バスは速度を守って運行する。
ここが私の育った町。
長閑な、ゆったりとした町。
都会に憧れる人には理解が難しいかもしれないけれど、小さな幸せにあふれた町。
帰って来た。そう、何時間もかけて。
何年も何年も向こうで頑張ったけれど、もうすっかり疲れてしまった。
「帰って来たら?」という家族の声に私は首を振り続けていたのに。
頑張るよ、頑張るよ、を繰り返して…。
こんなみっともない姿で帰って来てしまった。
なんて情けないんだろう。
夢を持って、希望を持って、やる気にあふれて飛び出して行ったのに。
父や母が私の為になけなしのお金をはたいて送り出してくれたのに。
「……っく、うぅ……」
ほろ、ほろと涙が零れて来る。ほろほろ、ほろほろと。
「ごめんねぇ…っ」
頑張る事に疲れてしまった。そうしたら、何も出来なくなってしまった。
ご飯を食べる事も、ベッドから起き上がる事も、何も。
友達が心配して献身的に世話してくれた。いろいろと助けてくれた。
でも、それに甘えてる内に、彼女の方が疲れきってしまった。
後悔しても遅かった。
私は私の事に精一杯で、彼女がつらい事に気づいてあげられなかった。
泣いて、泣いて、泣いたら、ベッドから起き上がれるようになった。
ご飯も自分で食べるようになった。
皮肉にも、彼女の生気を吸い取ったかのように体調や気力を少しずつ取り戻して行った。