ミステリービルディング
はじまりはじまり
雲が、グレーのグラデーションになっていて、とてもきれいな空。
オフィスの窓は、とても大きいつくりで、外の景色がよく見える。

仕事中、目を休めるにはとてもよい。

希は、派遣社員でこの会社に勤めて1か月。
プログラマー。独身。3か月前に離婚したばかりの30歳。

好きな飲み物はコーヒー。でも、ミルクを入れないと飲めない。

隣の席には、社員の青年。年も分からない。
あえて尋ねはしないけど、希は、自分よりは若いと、勝手に思っている。
なぜなら、数日前、希が誤ってペンを落としたとき、彼が拾ってくれた。
「あ、ありがとうございます。」
と、お礼を言った。その時、はじめて彼の顔をまじまじと見てしまったのだが、
お肌がつるつるだったのだ。

きれいな肌でうらやましい!!と思った。

とにかく、それ以上何も関わることがなかったので、それ以上の情報はない。

希の昼休みは、ほとんど喫茶店で過ごすことが多い。
会社の近くに、ほどよく空いているお店を見つけたのだ。
その店は地下にある。レトロな雰囲気で、漫画本がおいてある。
分厚いガラスでできた、扉が入口。
ソファは、茶色い、合皮製とみた。
すわると、お尻が沈む。
そこで、携帯のアプリの将棋をしながらサンドイッチを食べる。

将棋は、ルールは知っているけれど、必勝法などは分からない。ので、
自己流で楽しんでいる程度。

ここ一カ月、休日を除いて、この喫茶店に通っている。
しかし、そういえば、お店の名前・・、そうそうタロトっていう名前。

薄暗い、この店内で、一人将棋をする女って、さみしいわ、などと考えつつ、
希は、この時間を楽しんでいる。

仕事は、楽しいけれど、たまに、ふと、我に返るときがある。

そういうときは、自分の中の時間より、自分を取り巻く時間の流れが早すぎるときのような気がする。

どうして、こんなに、仕事があるのだろう。
今の生活は、十分に便利なはずなのに。

でも、そんなこと、ずっと考えてるわけにはいかないのだ。
希の仕事は、時間とのたたかいで、時間内にゴールしなければいけない。

それが、仕事の醍醐味である。と、いいきかせている。

昼休みが終わると、また仕事だ。

おとなりの青年は、席にいない。





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