ダメ恋・スキヤキ編
安くなった肉をいくつもいくつも手にしてはカゴにほうりこむ。

女の服装は
流行りのブランドのものだった。
カバンも靴も、、、そしてわたしとおそろいの時計。

ツンっと女の香水が鼻をつく。
安物の香水だった。

気分が悪くなりわたしはその場を離れた。

夜8時。
「ただいま」と彼が私の家にやってきた。

テレビも音楽もつけず、無音の空間で、
ソファに座って動かないわたしを見つた彼は、
少し心配そうに「どうしたの?」と発した。

でも次の言葉は「あれ!?スキヤキは?」だった。


値段を見ずに高級なお肉を買う。
シャンパンを買う。
デザートを用意する。

服装にも気をつかう。
アクセサリーも奮発する。
髪型も爪も足の爪にもネイルをほどこす。

すべてはわたしが稼いだお金で、だ。

彼が無邪気に喜ぶからわたしは必死に装った。

ひとりぼっちでも平気なフリをし、
携帯電話が鳴らなくても寂しくないフリをし、
お金がなくてもキレイを装った。

彼の家庭への恨み言も、うらやましがる言葉さえも飲み込んだ。

けれど、
わたしの本当の正体はあの、レジの女の顔だ。





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