ダメ恋・スキヤキ編
彼が家に来ないときは、
コンビニエンスストアのおにぎりやサンドイッチで夕食を済ませた。
彼が家族と出かける休日は、
家にひきこもって、
彼の奥様がつづる、ホームページを覗き見た。

彼の家族が笑っている様子を想像すると、
嫌がらせをしたくなった。

そのときのわたしの顔は、あの、レジの女の顔だった。

勝手に被害者になる顔。
嫉妬、憎悪、怒り。

すべては自身のせいなのに、
すべての不幸は他人のせいだと主張する顔。

「ね、ね、スキヤキは?なんで用意してないんだよー」
少し、彼の声はイライラし始めた。

「ごめんね、ちょっと疲れてて」

「オレだって、今日は接待ゴルフで疲れているのにさ」

「ごめん、ごめん。今日は外に食べにいこ」

「えー。おれ、カネないよ」


わたしはおそらく、すさまじい形相で彼を睨んだ。
殺意さえ感じた。
家族旅行に行くお金があっても、
愛人に出す金はないと言う。
出す価値さえない、女だということなのか。

「ごめん、ごめん。何かありあわせで作るから、
とりあえずビールと枝豆で晩酌してて」

わたしは彼をなだめた。
しょうがないのだ、いまは。
彼を捨てられないわたしが負けなのだから。

でもいつしか見切りをつけなくてはいけない。

あの、レジの女の形相になる前に。
不幸がしみついているような顔になる前に、
何もかも他人のせいにしてしまう前に。












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