LOVE・GAMELY -恋愛遊戯- (全199話)
■消えない

部屋を出ると家の中は真っ暗
その中で浴室の明かりだけがぼんやりと灯っていた

滝の音もそこから聞こえる

「…お母さん…?」

磨りガラスの向こう
黒い影が見える

しゃがみ込んでいるのか、その姿はとても小さい


「お母さん? お風呂にいるの?」

ドアノブに手をかけ、扉を開ける

その瞬間、見たのは湯舟に溜まる真っ赤な水
そしてその中に青白い手を入れる母親の姿だった


「お母さん! 怪我してるの?!」

焦って腕を掴むと、母さんはフッと目を開けた

「洋… 一緒に死のう…?」

自分の首にかけられた手は真っ赤で…
すごく冷たかった

「母さッ… 苦しい!」


小さな体は簡単に湯舟に突っ込まれ、ろくに呼吸も出来ない

「許して…洋…」

薄れる意識の中
真っ赤な血が水と混じっていく様が見えた

そして湯舟のフチに置かれた剃刀…


ね、死んだら何処に行くの?
遠くに行くの?

消えちゃうの…?


「勝手に死んじゃえ…ッ!!」


僕は…消えない








もう自分でもどこを切ったかなんて覚えてない

ただ夢中で…
逃げなきゃ殺されると思って

裸足でアパートの部屋を飛び出した

あまりに急ぎすぎて階段の途中からは転がるように落ちていった








『…ッ…洋…ッ!!』

…ここは…?

『洋…!!』

真っ白な天井
消毒液の匂い

『うなされてたけど… 大丈夫か?』

ベッドの周りには、男1人女2人…

『……あんたら…誰…?』



僕は…消えたくない…

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