LOVE・GAMELY -恋愛遊戯- (全199話)
■消滅への恐怖

『洋くん…』

話を続ける俺を奈穂はギュッと抱きしめる

震える小さな体…
泣いてんのかな…

『俺の父親は浮気性でさ… いつも母さんは泣いてたんだ…』

そう、奈穂と同じ
泣き顔が1番多い人だった

幼い頃はよく可愛がってくれたっけ
でも俺の姿が父親に近付くにつれ、母親の態度は変わっていった…

『父親にぶつけられない不満を父親に似た俺に…』

それが虐待の始まりだった
いい子にしてても何してても、止む事のない仕打ち

そしてあの夜が来てしまった…


『馬鹿みたいだよね… 慌て過ぎて階段から転げるなんて…』

目が覚めたら病院のベッド
奈穂達、3人が心配そうに覗き込んでた

『未だに信じられねぇよ… あれから6年経ってるなんて…』

記憶のないまま…
何も無かったふりで過ごした6年間

『記憶を取り戻したら、今度は逆に6年間を無かった事にするなんて…』

弱虫としか言いようがない
弱くて弱くて、涙が出そうだ

『…徐々に思い出していけばいいから…』

今まで無言で聞いていた奈穂が、静かに口を開く

『徐々に…?』
『うん… 急がなくていいの…』

優しく笑う奈穂
俺はそんな奈穂にそっとキスをした

理由なんて無い
無意識なキス…

『洋く…』
『思い出したら…今度は今の俺が消えるのかな…?』

幼い頃の記憶が消え、6年間が消え
今度はこの瞬間が…

『あんたは俺の記憶が戻ったら、また前みたいに笑うんだろ?』

俺はそれが恐い

『だったら嫌われてでも残りたい… 忘れられるのなんて御免だよ…』

消える事への恐怖を更に上回る恐怖
俺は忘れられたくない…
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