蒼空Letter
彼の家
鏡で何度も確認。
今日はソウちゃんの家に行くから、いつもみたいな格好は出来ない。
あんまり清楚ぶっても今後、お邪魔する時に困るから・・・
ジーンズのミニスカートにリブ袖のシンプルな黒のカットソー。
いつもゴテゴテ付けているアクセも数珠?パワーストーン?だけにシンプルに。
髪はそのままストレートに下ろして、ピアスは・・・まぁ別にいいや。
ネックレスはどうしよう・・・。
小さい石のに変えた方がいいかなぁ・・・。でも、いいか。
パワーストーンを付けた左腕を見ると不安になる。
今は白く浮き上がった傷だけど、目立つかな?バレるかな?
病気になった直後の中2の秋。
こんなに苦しいなら先に死んでしまいたいってリストカットをした事がある。
普通はカミソリかなんかなんだろうけど、よくわからなくてあたしは包丁で思い切り4カ所スッパリと切った。
ダイニングで溢れるように流れる血を見て、「人間なんだ」って妙に冷めた自分がいた。
あたしの異変に気付いた両親が慌てて病院に連れて行って、処置が終わった途端お母さんにビンタされた。
お父さんはただ青ざめているだけで、お母さんは病院中に響くくらいに怒鳴り散らした。
『こんな事して何の意味があるの』って。
意味なんかない。ただ苦しいのから逃げたかっただけ。
誰にもあたしの苦しみなんて、両親すら理解してない。
今思えば馬鹿馬鹿しい事をして、傷を隠すために皮のブレスの様なゴツい時計で誤摩化していなきゃいけない。
ゴツいものが好きだって言っても時計は傷隠し。
あの時、両親のどちらかが「辛いよね」って苦しみと痛みを共有してくれたら、あたしはこんなに歪んだ人間にはならなかった気がする。
ただ抱きしめてほしかった。それだけだったのに、そんな事今まで一度もない。
あたしを見る視線は確実に「恐怖」でしかないんだから・・・。