蒼空Letter
(あ、また欠伸してる・・・)
『彼』を見ていたら自然にニヤけてしまう。
危ない、危ない。口元を手で隠す。
結局、あたしの世界に色が現れる事もないまま高校初めての夏休みに入ろうとしていたある日、あたしの世界が一気に変わった。
モノクロに見えてた風景が色を、あぁ、木ってこんなに緑がいっぱいなんだとか、グラウンドの土は茶色だったなとかそんな事を再認識させてくれた存在が、今、斜め前で欠伸を連発している『彼』。
もう数日で夏休みって日の学校帰り。
日直で日誌を担任に提出してうだる暑さの中、玄関までの渡り廊下をボーっと歩いていた。
いつもより帰りが遅い事で気づいた。
いや、今まで気にも止めなかったのかもしれない。
「危なーい!!」
と言う大声がグラウンドから聞こえて、そっちを見た。
サッカーボールが勢いよくこっちへ飛んできている。
(ぶつかる!!)
思わずしゃがみ込んだけど、ボールが身体に当る事もどこかへ当る音さえしなかった。
不思議に思ってそっと目を開けると、
「大丈夫ですか?」
と言う男の子の声。
視線を声の方へと向けるとボールを手に持った男の子があたしを覗き込んで見ていた。
「平気です・・・」
そう答えると彼はお陽様みたいな笑顔で「良かった」と言った。
その笑顔を見た瞬間、周りの景色が一気に色付いた気がした。