Kiss me prince~意地悪王子と天然メイド~
道を抜けると、目の前に現れたのは大きな大きな…豪邸。
ママの地図は確かにここを示してるんだけど……。
ママがこんな豪邸に知り合いなんているはずないし、違うよね。
……やっぱりあたし、方向音痴だ。
ちょっとショックを受けながら、豪邸をあとにしようとしたそのとき…。
「――白石紗柚菜様…でございますか?」
「へ?」
突然名前を呼ばれて、間抜け声を出しながらパッと振り向くと、そこにいたのは黒いスーツをきちっと着た男の人。
髪の毛は黒く、ワックスでくしゃっとチャラくない程度にセットされている。
背筋がピンとしているせいか、とても若く見えるけど……多分30代後半くらいかな?
「お待ちしておりました! 私、この桜庭家の執事で小野塚愁(おのづかしゅう)と申します。さあ、どうぞ中へお入りください!」
「は…えっちょ…!!」
とびきり嬉しそうな笑顔を浮かべ、あたしを豪邸の中へと引っ張る小野塚さん。
「…ちょっと待って下さい! どういうことですか? なんであたしの名前……」
自己紹介もしてないのに…。
「あれ? 明美様から聞いてませんか?」
またママっ!?
ママが絡んでるってことは…。
い、嫌な予感――……。
「娘を雇ってほしいと、明美様から旦那様へ連絡があったとのことですが……」
「…ママから!?」