攪恋慕~かくれんぼ~
七年前に妹が行方不明、三年前に父が癌で亡くなり、今年は祖父が亡くなった。

皆、居なくなってしまった。

今は広すぎる家に、母と二人っきり。

特別な行事に拘わらず、最近溜め息を吐く回数が増えた母の為にも、なるたけ一緒に過ごせる時間を多く取れるようにしている。

まだ帰りのラッシュピーク真っ只中の人波に揉まれながら階段を上がり、ホームに辿り着くと、言われるまでもなく白線の内側を目指す。

邪魔にならないように人を避け、僕に位置を教えてくれる凸凹の感触を感じ、慎重にその少し手前で静止した。

駅構内に流れる放送に聞き耳を立てると、どうやら急行一本スルーして、後から来る各駅に乗った方が良さそうだ。

こういう時にベンチに座れないのが非常に苦痛だが、これだけ混んでいては致し方ない。

僕はほぅっと息を吐くと、気長に杖を突きながら待つ事にした。
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