慟哭の彼方
清々しい顔で店を後にした彼女の笑顔が離れない。
自分たちを見ながらどこか遠くを見ていたような視線が絡みついて離れない。
きっと彼女は最後まで、最期まで、彼のことを想っていた。
自分はチェルシーにそうやって取り残された時どうなるだろう。
考えただけで背筋が寒くなる。
その思考を断ったのは、またしても部屋の四隅まで響き渡る意志の強い声。
「そんなに簡単に償えると思うな!」
――小さい時の記憶って、なかなか消えないです。
悲しそうに打ち明ける声が痛々しくて、これは本当に有名女優の声だろうかと思った。
だってあそこにいたのはただ一人の、何の変哲も無い「女性」だった。
お前が彼女の記憶を、暗く塗りつぶした。