慟哭の彼方
予想もしていなかった質問に、魔女の目がほんの少し見開かれる。
それが驚きを示す表情だと理解するのはあまりに難しかった。
けれどそれをはっきりと表すこともないまま、魔女はよどみなく言葉を繋ぐ。
「…オレの名はチェルシー。あっちはアルスだ」
言いながら指差された青年が、小さく会釈をする。
それにつられて会釈をした後、マイラスは再びやわらかく笑った。
まるで、これからする願い事の内容を感じ取らせまいと意地になるように。
それほどに彼女は感情を隠すのが上手だった。
「私の願い事は……」
今度はさっきとは違って、感情が素直に魔女の顔に現れる。
「…それは、本当か?」
信じがたいほどの驚きと、ほんの少しの恐怖が滲む表情だった。
とても人間らしいと言えば、彼女は怒ったのだろうか。