慟哭の彼方
真っ正直に生きていくと豪語する少年に絵を渡した後も、彼女は一向に絵筆を握らなかった。
いつもみんなの願い事を記すノートにも、新しい依頼は書きこまれていない。
マイラスの願いを拒絶しようと、チェルシーは抗っていた。
「そんなに嫌なら断ればよかったんだ」
無意識のうちに、アルスの口からも厳しい言葉がこぼれる。
言ってすぐに後悔した。
だってチェルシーが、あんまりにも泣きそうな顔で笑うから。
「…そうだな、その通りだ」
いつもなら反論するのに、自分の想いを言葉で伝えようとするのに。
その時のチェルシーはやけに素直で、それが怖かった。