慟哭の彼方


どうしてだろう、自分はもっと切ない顔をするべきなのに。

マイラスは笑うことしかできなかった。


それは自分の愚かさにか、願い事が叶ううれしさにか。

「最初はただ、現実から逃げたかっただけなんです」

そう、それだけの単純な理由。


「小学生の時クラスのリーダー格の男の子にいじめられて、学校がちっとも楽しくなくて。でも、テレビの中の女優さんはみんな美しく輝いていました」

その輝きに魅せられて、憧れを抱いていただけ。


「…気付けば、私は彼女たちと同じ場所にいました」

周りの人に比べたら、なんて浅はかな動機だろう。

今でも女優になったきっかけをインタビューされるたび、後ろめたさから言葉を濁してしまう。


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