慟哭の彼方


アルスの反応を見てチェルシーもそれを察したのだろうか。

不安そうに、それが嘘だと信じて縋るような目でマイラスを見つめる。


「病気だったんです」

そんなことで同情されたくなかったし、力量を決め付けられたくなかった。

だからこのことは誰にも話していない。


呼吸を重ねるたび、嫌でもわかってしまう。

自分に残された時計の時間はもう長く残っていないこと。


「本当にごめんなさい」

そう呟いた瞬間、彼女の細い腕から額縁が零れ落ちた。

群青色の、暗く美しい絵。



あぁ――見てしまった。


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