慟哭の彼方
「あ、の…」
見かけによらず気弱そうな口調で青年が口ごもる。
口ごもっているというよりは、自分がなぜここに足を運んだのかわからない。
そんな顔をしていた。
「俺、何だかここに来なきゃいけないような気がして、でも思い出せなくて…」
支離滅裂な説明に、さすがの彼女も首を傾げる。
けれど彼の言うことに嘘やからかいの気持ちは無さそうだった。
「大切な人がいたような気がしたんだ」
「…どんな人だ?」
「わからない。男か女かすら、覚えていない」
傍から見れば意味不明な言動に、彼らの心が揺らぐ。
……まさか――。