慟哭の彼方
チェルシーはそのことについては何も言わなかった。
決してアルスと視線を合わせようとせず、うつむいたまま。
「それでも彼女は、幸せなはずだ」
――さよなら。
そう言って去っていった、あの晴れやかな笑顔。
真夏の太陽よりも眩しく、春に咲き誇る花々よりも美しく。
「彼女が幸せなら、オレは…」
そこから先は言葉を濁すしかなかった。
最高の女優へ敬意をこめて。
窓枠に切り取られた狭い空に向かって、2人で手を合わせ呟く。
さよなら。