慟哭の彼方
食材が詰まった袋を抱えてドアを開けると、彼女はいつも通りキャンバスと向かい合っていた。
けれどその手に絵筆は握られていない。
あの日からずっとそうだ。
笑顔で別れの言葉をつぶやいて去っていった女優の声が忘れられない。
彼女も、そして自分も。
「…チェル」
そっとその名前を呼ぶと、彼女の肩がびくりと震えた。
「マイラス…」
そうして、彼の名前とは違う名前をうわごとのように呟く。
充血した、悲しい色の目のままで。