慟哭の彼方


「だけど、」

言いながら、縋るようにその手がチェルシーを再び抱きとめる。



だけど、お前が店を辞めてしまうのも嫌なんだ。

矛盾だらけの気持ちを言葉にすることを辛うじて抑え、彼はきつく目を閉じる。


そぅっとそれを窺ったチェルシーには、その様子が世界のすべてを拒んでいるように思えてならなかった。

オレが情けないせいで、立ち直れないせいで、彼まで壊してしまうのか。


「…覚えてるか」

逡巡している間に、さっきとは違ってずいぶん優しい声がする。

「あぁ…しっかりと、覚えている」


過去の記憶がじわりじわり、滲み出てくる。

優しく美しい記憶も、悲しく醜い記憶も――。


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