慟哭の彼方


彼でもわかった。

わかったというよりは感じ取っていた。

彼女もまた自分と同じ浮いている人間だと、周りに馴染めない人だと。


「初めて見る顔だな」

そう言うと、乱暴にアルスの顔を両手で掴んで向きを変える。


自然と、彼女と向き合う形になった。

「名前は?」

粗雑な扱いに反抗心が芽生えたのかもしれない。

「人に名前を聞く時はそっちから名乗れよ…」


何ともか細く、迫力のない文句がこぼれた。


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