コンパスで作る地球



吉野クンはやっぱり全てを知っているみたいだった。


将也クンも何も否定も付け足しもせずにコクンと首を縦に振った。


「……そうだったのか。何してんだよ親父。」


「母さんにも……お兄ちゃんは毎年マラソン大会で優勝してたのよって……新記録を作ってたのよって別の日にたまたま聞いて……」


毎年優勝する尾田クンもさすがだと思った。そのお兄ちゃんの記録を越えたかったんだ。


「……俺の記録はあなどれねぇよ。」


「ヴッ。だって……」


「将也クン……」


私が声を掛けた瞬間。ついに泣きだしてしまった。


「……そんなこと分かってるよ!でもやりたかったんだ……グス。ンッ…就也兄も勉強してるから俺もこっちでも勝ちたかっだよぉー。」


将也クンの目からは涙がボロボロボロボロ出てくる。呼吸もどんどん荒くなって床に将也クンはへこんだ。


吉野クンは目をそらして下を向いている。真子は将也クンを見ていた。そして何故か私は尾田クンを見ていた。


――慶太。


バカ……最低。こんな時でも私は尾田クンと重ね合わせた。この前尾田クンの笑顔が一瞬だけ慶太に似ていた。


今。その顔が……その唇を噛むしぐさが……


慶太のことを思い出す。


――『紗耶香。俺だって弱いよ。だから強いって自分に言わないとすぐにでも……バカな未来を考える。』


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