片思いの続きは甘いささやき



自分の勤務するアマザンホテルで結婚披露宴を開くというのは、同僚達にからかわれるというオプションがもれなくついてくるって事だとわかった。

お色直しの後に、再び入場する為に会場の扉の前に立つ濠と透子は、濠の同僚達に次々とお祝いの言葉をかけられながら照れていた。

設計デザインコンクールで大賞をとった新婦の透子も巷では有名で、その顔を見たいという人数もかなり。

少し離れたところからそんな様子を見ていた雪美。

自分が披露宴をするなら、アマザンだけはやめよう…たとえ社員割引があったとしても。

軽く本気で、考えていた。

ざわざわと賑やかな入口の前が一瞬にして静かになったかと思うと、新郎新婦は会場へと入場していった。
眩しいライトに照らされる後ろ姿を見ながら、雪美はホッと息を吐いた。

「とりあえず…私はここまで」

閉まった扉の向こうで続く宴に、名残惜しい気持ちも確かにあるけれど、雪美がこの披露宴の担当として立つのはこの時まで。

ホテルでは濠と透子の披露宴以外にも催しはあり他にも仕事は多い。

雪美は明日から宿泊予定の海外のVIP達への対応の最終打ち合わせがあった。

本来なら濠も関わる仕事だったけれど、ホテル側の配慮で新婚旅行を優先させる事になった。

最後まで、新婚旅行を延期して仕事に加わると言い張っていた濠だったけれど、いつになっても濠の体が暇になるなんてない現実を説かれて、渋々納得した。

濠と並んで仕事に就く機会の多い雪美は、濠のように役職で上を目指していないものの、勤続年数も長いせいで、責任を背負う立場にいる。

アマザンでの10年は、仕事と。

濠への報われない想いに苦しむだけの日々。

仕事にしか打ち込むものがなく、濠への断ち切れない想い故に恋愛を楽しんだ事もない。

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