片思いの続きは甘いささやき
「んな事わかってるんだよっ。だから誰の事を言ってるんだ」

いつもなら薄い笑いでなにもかもをやり過ごす喬の感情的な声に、慌てそうになった悠里だけれど。もともと負けず嫌いな性格。

「ゆきみっ。濠さんの同僚のゆ、き、み。
喬が落ち着かずに探してる女。
…ここにはいないんだから探しても無駄だからね」

周囲を気にせずに一気に吐き出した悠里は、何度か大きく息を吐いて自分を落ち着かせようとした。

全く…何で私がここまで…。

肩を竦めて喬を見ると、
呆然と自分を見つめていて…ほんの少し胸が痛んだ。
喬がこんなに感情の波を晒すなんて滅多にない。

思わせぶりな言葉や態度で掴んだりかわしたり逃げたり。

対女の子に関しては、全く本心を出さない男なのに。

長い片想いの相手だった透子に関して以外の女の子に纏わる事全て。

サラリと流していたこの男のこんなに自分でコントロールされてない状態
を見るなんて稀。

「…大当りだって、その間抜けな顔が言ってるよ」

「…」

「本当、私ってけなげよね。別れた恋人の恋路をサポートしてさ。
こんないい女と別れるなんて喬も馬鹿よね」

同じテーブルには同期何人かがいるけれど、各々盛り上がっていて喬と悠里の会話を気にする者はいなくて。

悠里は肩を竦めて続けた。

「まぁ、透子に片想いしてたままなら私も喬とは別れなかったけど」

「…は?」

「絶対に手に入らない透子を想い続けるなら、私が側にいてもいいと思ってたけど。

…雪美さんに気持ちが向いてるってわかったら…もう側にはいられないよ」

あっさりと、どちらかと早口で話す悠里は笑ってはいても…瞳の奥は不安定に揺れている。
テーブルの上で組まれた指先は震えている…。

気づいた喬は、そんな悠里にどう反応していいのかわからず視線を絡ませたまま。





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