片思いの続きは甘いささやき




昼食もとらずに打ち合わせに突入して、ようやく終わったのは17時。
会議室の後片付けを新入社員に頼むと、雪美は足早にエレベーターに乗り込んだ。
客室のフロアに着くと、一番奥に向かいながら止まらない鼓動に吐きそうな気持ちを抱えながら。

どこか落ち着かない不安に似た感情に気付かないように。
何も考えないように。

今日の披露宴で見せた喬のあの表情。
雪美には見せたことのない心底大切そうに透子を見つめる優しい瞳や口元を、思い出さないように。

わかってはいたけれど、やはり透子への想いは自分へのものとは全く違うと、あからさまな喬の様子から思い知らされた。

ちゃんとわかってる・・・。

初めて喬を見た三か月前の透子の授賞式からずっと。
雪美は相手は違えど透子を愛する男に片想い。
どうして・・好きになる男はみんな透子を大切に思っているのか・・・。

いくら悩んでも出口の見えない苦しみに、もう慣れて。

心に蓋をして。

気付かないように考えないように。

そうやって心の均等を保ちながら、喬に抱かれてきた。

『部屋に来れるか?』

喬からのメールが届いたのは打ち合わせの最中。
雪美が披露宴から抜けた事を気付いたんだろうけれど、それについては何も聞かずに。

来れるか?

来い

じゃなくて、雪美の気持ちを試すような誘いの言葉。
会うといつも強気な態度で雪美の事を思うがままにするのとは逆に、会うか会わないかの決断は雪美に任せる。

そんな喬からのいつもと変わらないメールにほっとする気持ちとその逆の落ち込む気持ちを抱えながら、披露宴での喬の様子は思い出さないように・・・雪美は喬の部屋へ向かった。

普段なら雪美の勤務するアマザンを使うなんてしないのに、今日に限っては何故かアマザンに部屋をとった喬が気になって
勤務中にも関わらず、喬の指定の部屋にやってきた。

とりあえず、すぐに仕事に戻るつもりで。
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