片思いの続きは甘いささやき
喬の笑顔は雪美だけにまっすぐ向けられていて、喬の落ち着いた心がそのまま表れているように見える。
距離的に言えば、雪美の隣に立つ濠に戸惑いの表情と不安な心を向けていてもおかしくはない。付き合いでいっても雪美にとっては喬よりも濠との方が間違いなく長い。
多分、喬との出会いがなければ今も濠に助けを求めていたかもしれない。
そんな雪美が視線で戸惑いをぶつけたのは喬。
傍らの濠ではない。
雪美の無意識のそんなちょっとした様子に、喬はそれまでにない安心感を覚える。
首をかしげながら訳のわからない顔で自分に頼ろうとする雪美を愛しく思う。
一目で惹かれながらも、雪美の気持ちには濠に対する想いが隠しきれていなくて。
手放すつもりは毛頭なかったにしても、自身の素直な気持ちをそのまま伝える事には躊躇いがあった。
ここ最近で、雪美が向ける喬への仕草や言葉に、そろそろ我慢の限界も感じていた喬にとっては、この部屋に入ってきた雪美の様子が。
喬自身の感情を露わにできるきっかけになった。
望んでいた雪美からの無言の言葉に触れる事ができて、喬の想いは穏やかな笑顔になって隠すなんてできなくなっていた。
多分、どうしてこの部屋がこんな状態なのかわからない以上の衝撃と戸惑いが雪美に落とされた瞬間。
立ち止まった雪美。
まるでそれが欲しかったんだと、あからさまに意識の外に追いやっていた喬への望みが今目の前に落とされて、動けなくなった。
そんな雪美に温かい表情のまま、喬はその場からゆっくりと近づいた。
「柚さんが、雪に会いたいって。・・・どうしても」
雪美の頬をあたりまえのように手の甲で撫でながら喬は満足気に囁いた。
今までに触れる事のなかった喬の甘い表情と声が、言葉の中身以上に雪美を混乱させるけれど、とっさに柚へと視線を向けると、明るく輝いた瞳の柚がにっこりと笑った。