片思いの続きは甘いささやき
L字型の大きなソファに浅く腰掛けて、赤ちゃんを抱いている柚は、彼女の結婚式で見せたよりも輝いている笑顔を雪美に見せた。
「雪美さん、お久しぶりです。今日は、健吾にくっついて濠さんと透子さんにお祝いを言いに来たの。
雪美さんにも会いたかったし・・・忙しそうなのに、ごめんなさい」
柚の、相変わらず静かに紡がれる言葉は雪美を落ち着かせていく。
隣に座って柚の腕に抱かれる赤ちゃんを見守る健吾も、顔を上げると苦笑しながら
「仕事中で忙しいに決まってるのに、どうしても雪美さんに会いたいってきかなかったから、ごめんね」
本心から申し訳なさそうに頭を下げた。
「あ・・・大丈夫です。もう打ち合わせは終わったんで・・・」
「本当?なら、少しだけ話したりって大丈夫?」
柚の嬉しそうな顔に、どうして自分がこの場にいるのかまだよくわからないままに、雪美は柚の前に立った。
おとなしく眠っている赤ちゃんは、桃色のロンパースを着ていて、寝顔ですら綺麗な顔をしている。健吾も柚も整った容姿をしているから、あたりまえだ・・・。
ふっと穏やかな気持ちが静かに湧いてくる。
雪美は床に膝をついて、じっとその寝顔に見入った。
「雪美と柚ちゃんが知り合いだったって知らなかったな」
赤ちゃんを起こさないように気をつかってか、濠の小さな声。
不思議に思うのも当たり前で。
雪美だって、今こうしてこの場にいて赤ちゃんをまじまじと見ている状況が不思議でならない。
確かに柚の結婚の時には、担当リーダーとしてあらゆるサポートをした。
雪美にとっては、柚の体調を神経質にきにしながら、無事に宴をお開きにもっていけるかをかなり重く考えながらの忘れられない結婚披露宴だった。
交通事故によって全身に受けたダメージと付き合いながら生きることを余儀なくされた柚の結婚披露宴は、第三者の雪美にとっても、どうしても幸せな未来へと繋げることのできる意味深いものにしたい必死な披露宴だった。
だから、柚の事はよく覚えている。
無事に披露宴を経験して、「ようやく普通の女性が味わえる幸せの一つを味わえた」
感慨深く呟いた柚の言葉も忘れていない。