片思いの続きは甘いささやき
濠の声に顔を上げると、何度か雪美とも顔を合わせた事のある相模。
建築界のカリスマ。
建築に全く関係のない雪美でさえその名を知っている、有名な人。
確か・・・透子さんの上司で、今日の披露宴の主賓だった。
厳しい表情ではないけれど、整った顔は安易に他人を懐には取り込まない線を感じる。
その隣には・・・相模の妻の葵。相模より若い優しそうな女性。
雪美と目が合うと、穏やかに笑った。
そして、いつの間にか雪美の隣に立つ喬。
ゆっくり立ち上がった雪美の腰にあたりまえのように手を回す喬は、びっくりしている雪美を楽しむように意地悪な目を向けた。
そして。
そんな喬を驚いたように見ているのが、透子。
薄い水色のワンピースを着た彼女の存在に初めて気付いて、あ・・・と雪美は動揺してしまう。
腰に感じる喬の手の温かさと意地悪な目の影に隠れて今まで気付かなかった女性。
多分雪美の今までの人生で一番意識してきたはずの女性。
同じ空間にいれば否応なくその存在を視界の片隅に感じながら。
その笑顔に何度も苦しめられてきた。
そんな女性なのに、どうして。
ふ・・・と違う種類の戸惑いと不安が雪美の瞳の奥によぎった。
それは、雪美本人にも理解できない不可解な感情。
小さな揺れは、周りには気づかれていないはず。
少し跳ねた鼓動を落ち着かせるように、表情は変えずに小さく息を吐いた。
どうしてなんだろ・・・。
今まで、透子さんの事、あんなに意識してたのに・・・。
気付かなかった・・・。
雪美は、自分の感情への戸惑いを隠すように喬を見た。
そして、喬の気遣うような瞳に射られてしまった。
大丈夫か?
と、視線で会話。
大丈夫だよ。
とほんの少し口元を綻ばせる。
すると、喬も小さく頷いた。
わかった。
と、雪美に伝えるように。