片思いの続きは甘いささやき

「そこ、仲がいいのはわかったから、見せつけないでくれよ」

「え?」

雪美がはっと声のほうに視線をあげると、健吾が冷やかすようににやりと笑っている。

「ま、独身は雪美さん達のカップルだけだもんな。人の結婚式見たあとは気持ちも盛り上がるよな」

くすくす笑う健吾に、雪美は一瞬言葉を失ったけれど、否定しようと口を開きかけた時

「そうですよね、結婚式もだし、こうして可愛い赤ちゃん見ると盛り上がるって初めて知りましたよ」

ごくごく自然な口調で答える喬の声に、何も言えなくなったまま、ぼんやりと喬を眺めて。

ふと気付くと、喬の隣にいる透子も怪訝そうに喬を見ている。
雪美と目が合うと、一瞬の間の後肩を竦めてほっこりと笑った。

喬にからかい気味の笑顔を向ける透子の顔は、まるで喬の雪美への態度を素直に喜んでいるよう。

雪美にも同じように向ける単純な笑顔が、雪美には意外だった。

ずっと濠へのつらい想いの向こう側にいた透子の事をちゃんと見た事がなかった事に気付くと同時に。

こんなに綺麗に笑う人だったんだな…と感じる。

濠が選んだ人は、やっぱり濠に似合ってる。

そう感じながらも悲しい感情に襲われる事のない自分を、意外にもすんなりと受け入れられる事に驚いてしまう。

雪美にとっての悲しい象徴だった透子を、安らかな想いで、何の負の感情もなくまっすぐに受け入れる事はかなり難しいはずだけれど。

雪美の背中に置かれたままの喬の温かさが、すんなりと。

透子を濠の妻だと受け止めさせてくれる。

なんて…。

なんて楽なんだろう。

羨みもひがみもなく、透子をただ見つめる事ができるのは、なんて楽なんだろう。

長く長く縛られていた濠への痛みから、ようやく解放された自分に気付いた雪美の表情は、たおやかで美しく。

喬を見上げる瞳には、何の迷いもなかった。
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