片思いの続きは甘いささやき
雪美と喬の甘い空気に、その場にいる面々が苦笑している中で、唯一自分の時間を送っているこの部屋の天使…が突然泣き出した。

柚の腕に抱かれて眠る顔は天使、泣き顔はやんちゃな桜。

うひっうひっと軽い泣き声にはとりたてて柚も健吾も慌てる事なく、慣れたように背中をぽんぽんと撫でながらあやす。

「この子…桜ね、雪美さんが私の背中を押してくれたから生まれた奇跡の子なの」

「え?」

突然の柚の言葉に雪美ははっとする。
桜をあやす仕草はそのままに、雪美に向けた顔は優しさが満ちている。

「私の結婚式で、どうしても…ほんの少し胸元から見えてしまう事故の傷痕を気にしてた私に言ってくれた事覚えてる?」

思い返すように、ゆっくりと話す柚。
産後、かなり一生懸命にリハビリをこなしながらもともと弱い身体を少しでも育児に支障がないよう必死に頑張っていた彼女は。

どう見ても華奢で、線の細い身体を雪美に向けている。

近くで見るその表情は輝いていて、口元には笑顔が絶えない。
腕の中でもぞもぞと手足を動かしながら、潤んだ瞳を柚に向ける赤ちゃん・・・桜ともよく似たその顔は、細い体とは対照的に幸せのオーラに満ちていて、柚をたくましく感じさせている。

そんな柚の告白の真意がつかめない雪美は、どう反応していいのかわからないまま。

「あ・・・久しぶりに会って、そのうえこんな事を言われても困っちゃうわよね。
ごめんなさいね。・・・でも、ずっと言いたかったの。雪美さんが、悩んでも仕方がない悩みを、私から取り除いてくれたおかげで・・・心の底から健吾と幸せな披露宴を経験できたから・・・」

「あ・・・よくわからないんですけど・・・披露宴の事は覚えてます」

雪美が、ようやく答えることができたのはほんの少し。
しっかりと話す柚に反して、首をかしげるばかりの雪美。
雪美の隣に立つ喬は、そんな雪美の背中に置いたままの手を優しく上下させて。
まるで彼女の感情を落ち着かせるように。
< 25 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop