片思いの続きは甘いささやき
「あの日・・・私は・・・健吾と結婚できる幸せの中にいたけれど、やっぱり体に残るたくさんの傷跡が気になってたの。健吾は気にしてないってわかってたけど、傷跡がドレスで隠しきれないところから見えるたびに・・・。
事故の事思い出すし、事故のせいで、妊娠できない可能性が高かったから・・・その事ばかり考えちゃって。
本当にこのまま健吾に飛び込んでいいのか悩んでたの。挙式も終わって、披露宴に向かう控室にいるっていう時にまでぐずぐずとね」

自嘲気味な柚の声に、柚の傍らにいる健吾もつらそうに顔を歪めている。
たとえ結婚して何年か経っていても、当時の思い出は二人には切ないものらしい。

「覚えてます。・・・震えながらうつむいて・・・今にも消えてしまいそうだったから」

披露宴までのほんのわずかの時間、控室の様子を見に行った雪美には、哀しげにドレスを纏った花嫁の姿が衝撃的で、その場から離れる事ができなかった。
ウエディングドレスからのぞく胸元に、ほんの少し。見える白い傷跡は、大して目立つものではなくて、じっと見ないと気付かないくらいの小さなもの。

それでも、気にしている本人にしてみれば無視できないもので。
その傷自体よりも、もっと深い悩みを導くものらしいと、なんとなく感じた雪美は、震えながら笑う花嫁を落ち着かせるように、柚の手をぎゅっと握った。

その時の事を柚は思い出したのか、一語一語かみしめるように。

「嬉しかったの。温かい手が私の震える手を包んでくれて。寒くないのに心は寒くてどうしようもなくて。健吾が大好きで仕方ないのに悩んでばかりで・・・雪美さんの手は、本当に温かかった。それに・・・」

一息ついた柚は、抱きかかえる桜のほっぺを優しく撫でながら。

「体の傷跡も、将来妊娠できない運命だとしても、そんな事を超えてしまう魅力が私にはあるから、健吾は私を選んでくれたんだって・・・そんな私自身を信用しなさいって言ってくれたから。・・・なんだか心も落ち着いたし、未来を信じてみようって思えたの。
そんな潤った気持ちで披露宴を楽しめて・・・一生忘れられない時間を過ごす事ができたのは雪美さんのおかげだから。・・・感謝してます。ありがとう」

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