片思いの続きは甘いささやき
部屋中に響く柚の涙混じりの声に、しばらくは何をどう受け止めていいのかわからなかった雪美は、少しずつはっきりと蘇る記憶に後押しされるように落ち着いてくる。
あの時は、柚の気持ちが切なくて悲しくて。
詳しい事情は知らなかったけれど、幸せになるに違いない愛し合う二人の披露宴を、いいものにしてあげたくて必死だった。
何度も経験した披露宴の担当だったけれど、そんなのは全く役にたたない別の思いで、柚と向き合っていたほんの短い時間。
雪美にとっても大きな出来事だった。
「あの時未来を信じたから。奇跡は起こったの。この桜は奇跡以外の何物でもないから」
ふふっと笑う柚は、まだ少し赤い目で雪美にほほ笑んでいる。
何度も雪美に感謝の言葉を重ねる。
誰にも負けない幸せの光に包まれて。
そして、そんな柚のまわりにいるのは。
柚の幸せを心から喜ぶ人たち。
濠も、親友のつらい日々を知っているだけに、涙ぐんでいる。
柚が体に傷をおった交通事故に巻き込まれて両親を亡くした相模の妻の葵も。
柚を中心に漂う穏やかな空気の中で、背中に感じる喬の指先の温かさ。
ふと気付いた雪美は、そっと喬の顔を見上げる。
そこには、他の誰でもない。
雪美だけに愛情を向けている瞳があった。
誇りに満ちた、まるで見せびらかすように雪美の傍に寄り添う喬。
長い長いつらい片思いの相手の結婚式の直後だというのに。
そして、その本人が同じ部屋にいるというのに。
そんなすべてを追いやるくらいの強い確信が喬の姿から受け止められる。
もう・・・片思いじゃない。
雪美がそう感じて、体中に温かいものが流れ始めたと同時に。
それは間違っていないと教えてくれるように、喬の口角が上がった。