片思いの続きは甘いささやき
雪美が柚たちと過ごした時間はほんの10分程度の短い時間だった。
披露宴の後の慌ただしい中で、濠と透子がおさえていた客室での短くて濃い時間。
柚の赤ちゃんや相模の双子の子供達を部屋で遊ばせていた流れで集まっていた面々。
柚がどうしても雪美にお礼が言いたいと言い出して、たまたま透子の荷物を持って部屋を訪ねた喬もつかまり。
雪美も喬からの電話で現れて・・・。
思いがけない展開に、雪美はもちろん喬も戸惑いを隠せなかった。
二人がそれぞれに長い間想い焦がれてきた片思いの相手がいよいよ決定的に自分以外のものになってしまう今日。
折り合いをつけるべき感情もある。単純な片思いではなかった。
それでも、そんな切ない気持ち漂うはずの披露宴の間中かみしめていたのは、もう片思いの相手は変わってるんだっていう事。
相変わらず片思いっていうのが受け止めにくいけれど、喬も雪美もお互いに切ない方向を向きながら、感情の揺れに任せるまま。
もう次に気持ちは移ったんだと確認するための披露宴だった。
新郎新婦よりもお互いしか意識できなかった。
そして、いきなりの柚の言葉たち。
過去に発した雪美の言葉によって奇跡が起こって、柚も健吾も幸せになる手助けができた。桜という奇跡も伴って。
雪美にとっては、入社以来濠へのつらい気持ちに彩られていた仕事だったけれど、ちゃんと誰かの役にもたっていた。
この10年は自分にとっては後悔はしないけれど、結局誰にとってもプラスにはならなかった不毛な時間だったと悲しい過去になっていた。
それでも柚からの涙は、自分が存在していた時間は無駄ではなかったと。
このホテルに入社した意義があったと・・・苦しい呪縛からの解放だった。