片思いの続きは甘いささやき
「披露宴まで、お茶でもするか?」

「…無理」

「あ?何で?」

たちまち機嫌が悪くなった喬の声に、気持ちは揺れる。
いつも雪美を捉えて離さない喬の態度全てに途方に暮れる。
雪美は小さな声で。

「真田くん達の披露宴の担当だから…急いでるの。今から着替えて会場に詰めなきゃいけなくて」

俯いて、ようやくそう告げた。

「へえ…。なかなか楽しそうな仕事だな」

「え?」

からかうような喬の声に顔をあげると、冷たい色の瞳。

雪美の気持ちを馬鹿にしてるように暗い。

「…ずっと好きだった男の結婚をサポートするなんて、滅多にない楽しそうな仕事だな」

吐き捨てるような声音は雪美を震わせるには十分で、そうじゃないのに
と言えず体は固まったまま動けない。

「俺も披露宴に出てるから、じっくりとあんたの辛そうな顔を見ててやるよ」

「喬…」

「俺に抱かれた時の顔とどっちが辛そうか、あとで報告してやる」

言い捨てる喬の歪んだ顔が、一瞬にして近づいて。

瞬間熱くなる唇。

下唇を舌でなめられた…

はっとしたと同時に、チンという音とともに止まったエレベーター。

素早く離れた喬は、手の甲で雪美の頬を撫でるとエレベーターから降りていった。

平然と歩くその後ろ姿をぼんやり見ながら、残された雪美の頭は真っ白。

「…なんだったのよ…」

唇に手を当てて、今言われた言葉や喬の唇の熱さを思い返すしかできなかった。



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