片思いの続きは甘いささやき
各界の著名人達の利用も多いアマザンホテルで披露宴をひらくというのは予約をするだけでも大変で、二年前からの予約は当たり前。
特に人気の部屋は500人収容できて明るさには定評がある。
今日濠と透子が披露宴をひらくのもこの部屋で。
普段自分の要求を出すなんて滅多にない濠が、どうしてもこの部屋で、と無理を通しておさえた理由を聞いた時。
『どこまでも透子さんの事しか考えてないんだな…』
雪美は苦笑しながらせつなくなった…。
透子の実の父親が手がけた内装。
娘への想い溢れたこの部屋で、どうしても幸せの門出を祝いたいという強い願い。
10年以上想い続けた濠への捨てきれない愛情も、そんな現実を突き付けられてしまうと諦めるしかなくて。
雪美の心から、深く重い片想いの塊は…すっと崩れていった。
確かに、今でも大好きだしときめく事もないわけじゃないけれど。
雪美の心は穏やかに今日を迎えている。
透子の白無垢姿を目にしても、単純に綺麗だなと見入るしかできなくて、仕事柄見慣れている華やかな装いにも目を奪われた。
見つめ合う濠と透子の姿を見ながら涙が浮かんだのは、愛し合う二人が結ばれる奇跡が美しく感じたのと…。
叶わぬ片想いからようやく解放された安堵感。
滲む涙の温かさが、今までの雪美の時間を肯定してくれるように感じる。
入社してからずっと好きだった濠の披露宴を、しっかりとサポートしよう…。
雪美は気持ちを切り替えてレモンイエローのドレスを脱いで、制服に腕を通した。