やわらかな
窓際の彼女

今僕の目の前で食パンをひたすら頬張っている彼女は、クラスの中でも一際目立つ存在であった。

それは悪い意味でもなければ、決して良い意味でもなく。

誰もが好奇の眼で彼女を見つめていた。それくらい彼女は独特で、彼女以外の何者でもない彼女だけの雰囲気を醸し出していたのだから。


「なぁ、小夜子さん。食パンだけで食べたって何も美味しくないんじゃないか?」

「どうして食パンは他のパンに比べて低価格なのしら。こんなにも美味しいのに」

彼女は非常に耳が遠かった。ちなみにそれは病的な物ではない。症状を引き起こす理由は彼女の性格にある、と僕は判断している。

周りの人間が彼女を好奇の眼で見るように、彼女は自分の周りにある物を好奇の眼で見つめていた。何に関しても真っ直ぐ、純粋に。

ただ時にそれは彼女の邪魔をすることがあった。それがこの症状である。

「なぁ、小夜子さん。僕の話聞いてた?」


彼女はどうやら酷く不器用で、一方に集中すると他のことには目を向けられないようだ。長い間彼女を見て来ればこんな所も愛しく思えるが、初対面の人間にそれは通用しない。
それなのに誰でも構わずこの態度をしてしまう彼女だから、勿論誤解されやすい訳で。

「え、何か言ってました?」

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