岩内さん、フォーカス!
海豚とアシカとセイウチのショウを観て、巨大な水槽に鮫や鰯の大群を観た。

小さな水槽もひととおり観て、一息。

館内の椅子に、向かい合って座る。

萌は満足げに深く、息を吐き出した。



「いやぁ。来てよかった」

「外村先輩に、お礼を言わないとね」

「そうだね」



微笑もうとして、腹が鳴る。

恥ずかしくなって、俯く。

萌はふふふと笑った。



「ご飯、食べよっか」



水族館を出て少し歩き、バスに乗り、降りて駅前通りを進み、神社や動物園の入った広大な公園に入る、少し前。

喫茶店《Lievre》。

扉を開けると、ドアベルがささやかな音を立てた。



「いらっしゃいませ」



穏やかな声に迎えられる。

顔を向けると、エプロンを付けた青年が声の通りに、穏やかに微笑んで、軽く頭を下げた。



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