一番星
「なんで私のチャリ奪われたんでしょうか」
自転車にまたがって、クルリと私の方をむくと、荷台をポンポンと。
「乗って」
「え。」
さも当然かのように言うけど、この人はニケツできるのだろうか。
「なにその疑い深い顔」
「ニケツできるの?」
「ニケツとか学生が通る道だろ。」
当たり前のように言い放った。
とりあえず荷台にまたがる。
「落ちないように気をつけて」
「……不安しかないんだけど」
不安とともに出発。
けど、そんな不安もいらなかったと感じたのは、案外早かった。
スイスイと一定の速度で安定したまますぎてゆく風景。
段差も避けてくれるしお尻への衝撃も少なかった。
サドルひくいだの、空気抜けてるだの文句を言いつつ、和妻は迷うことなく私の家まで漕いでくれた。
「なんかアリガトウゴザイマス」
「いーえ、ドウイタシマシテ」
空気いれろよ、と言って帰っていった。
その後ろ姿が暗闇に消えるまで私は眺めていた。
来た道を引き返す訳じゃなかった。
案外近くに住んでたりして。